この記事でわかること

  • 練習量だけでは、上達の個人差を説明しきれません。音楽では、練習量が成績の個人差の21%を説明するというメタ分析があります。
  • 練習中の出来と、時間がたっても保たれる上達(学習)は別のものです。
  • 課題を交互に練習する方法(インターリーブ練習)は、あとの成績が良くなる傾向がありますが、効果の大きさには幅があります。
  • 練習のあとの睡眠や、練習の合間の短い休憩も、技術の定着に関わるという研究があります。
  • イメージ練習は、実際の練習に加える形で効果が報告されています。

Quantity and Quality練習量だけでは、上達は説明しきれない

「たくさん練習した人が上手くなる」というのは、自然な考え方です。実際、20年以上前に、演奏などの個人差は、「意図的練習」の量でおおむね説明できるという考えが提案されました。意図的練習とは、技能を向上させるために特別に設計された、構造化された活動のことです。

Ericsson, K.A., Krampe, R.T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance.

Psychological Review, 100(3), 363–406. https://doi.org/10.1037/0033-295X.100.3.363

「意図的練習」の概念を提唱した論文。技能を高めるために特別に設計された、構造化された練習が、専門的な技能の習得に果たす役割を論じている。

この考え方を検証したメタ分析があります。意図的練習が成績の個人差を説明する割合は、ゲームで26%、音楽で21%、スポーツで18%、教育で4%、職業で1%未満でした。著者らは、意図的練習は重要だが、主張されてきたほど重要ではないと結論づけています。音楽でも、練習量以外の要因が大きいということです。

Macnamara, B.N., Hambrick, D.Z., & Oswald, F.L. (2014). Deliberate practice and performance in music, games, sports, education, and professions: a meta-analysis.

Psychological Science, 25(8), 1608–1618. https://doi.org/10.1177/0956797614535810

意図的練習と成績の関係を、音楽・ゲーム・スポーツ・教育・職業の各分野でメタ分析した研究。意図的練習が成績の個人差を説明する割合は、音楽で21%だった。

ピアニストを対象にした研究もあります。4つの技能レベルの22人に、割り当てられたバッハの曲を練習して暗譜してもらい、練習をすべて録音して、最後に演奏を3人の経験豊富なピアノ教師が評価しました。結果として、1回の練習時間は、技能レベルが高いほど長く、ばらつきも大きくなりました。しかし、練習の量は、演奏の質と有意には関連していませんでした。一方で、練習の中盤までに、長めの練習区間(セグメント)を使っていた奏者ほど、音楽性・伝達力・技術のいずれの面でも良い演奏をしていました。

Williamon, A., & Valentine, E. (2000). Quantity and quality of musical practice as predictors of performance quality.

British Journal of Psychology, 91(3), 353–376. https://doi.org/10.1348/000712600161871

22人のピアニストの練習を録音し、練習の量と、最終的な演奏の質の関係を調べた研究。練習の量は演奏の質と有意に関連せず、練習の内容と質を調べる必要があると結論づけている。

ただし、この研究は22人の相関を見たもので、練習区間を長くすれば良い演奏になる、という因果を示したものではありません。確かなのは、練習の時間を増やすだけでは、上達を説明しきれないということです。

Learning vs Performance練習中の出来と、本当の上達は別のもの

練習中にうまくできることと、時間がたってもできること(学習)は、別のものとして区別されます。運動学習の研究では、練習中の成績は、長期的な学習を表す指標としては当てにならない場合があるとされています。

練習の条件が難しいと、練習中の成績は下がるのに、長期的な保持は高まることがあります。運動学習の研究を整理したレビューでは、練習の最後の成績より、時間をおいたあとの保持や転移の成績のほうが、運動学習をよく表す指標だとされています。さらに、人は、練習中の出来を、長期的な学習のあてになる指標と誤って解釈しやすいことも、研究で指摘されています。

Kantak, S.S., & Winstein, C.J. (2012). Learning–performance distinction and memory processes for motor skills: a focused review and perspective.

Behavioural Brain Research, 228(1), 219–231. https://doi.org/10.1016/j.bbr.2011.11.028

運動技能の「練習中の成績」と「長期的な学習」の区別を、運動学習の研究から整理したレビュー。難しい練習条件が、練習中の成績を下げても、長期の保持を高めることがあると報告している。

Soderstrom, N.C., & Bjork, R.A. (2015). Learning versus performance: an integrative review.

Perspectives on Psychological Science, 10(2), 176–199. https://doi.org/10.1177/1745691615569000

学習と成績の区別について、運動と言語の学習の研究を整理したレビュー。人は練習中の成績を、長期的な学習の指標だと誤解しやすいことも示している。

演奏にあてはめると、「今日いちばんスムーズに弾けた練習」が、1週間後の演奏を最も良くする練習とは限らない、ということになります。練習の効果は、日をあけて弾いたときの出来で確かめるのが、研究の考え方に近い方法です。

Order練習の順序:同じことの繰り返しか、交互か

同じ課題を続けて練習するやり方を「ブロック練習」、複数の課題を交互に練習するやり方を「インターリーブ練習」(ランダム練習)といいます。運動学習の研究では、インターリーブ練習のほうが、あとの保持の成績が良くなることが知られていて、「文脈干渉効果」と呼ばれます。

ブロック練習

  • 同じ課題を続けて練習する
  • 同じ動きの繰り返しが中心になる

インターリーブ練習

  • 複数の課題を交互に練習する
  • 切り替えのたびに思い出す作業が必要で、負荷が大きい
  • あとの保持の成績が良くなる傾向がある

文脈干渉効果を調べた61件の研究(139の効果量)をまとめたメタ分析では、全体の効果量は0.38でした。基礎研究では0.57、応用の場面では0.19と、差がありました。また、成人では0.50、若い学習者では0.10でした。つまり、効果は実験室の研究や成人で大きく、実際の指導の場や若い学習者では小さい傾向があります。

Brady, F. (2004). Contextual interference: a meta-analytic study.

Perceptual and Motor Skills, 99(1), 116–126. https://doi.org/10.2466/pms.99.1.116-126

文脈干渉効果に関する61件の研究、139の効果量をまとめたメタ分析。全体の効果量は0.38で、基礎研究(0.57)が応用研究(0.19)より、成人(0.50)が若い学習者(0.10)より大きかった。

音楽の場面での実験もあります。10人のクラリネット奏者に、協奏曲の提示部と技術的な抜粋を、ブロックで(1曲12分)練習する条件と、インターリーブで(3分ずつ交互に、合計12分)練習する条件で、それぞれ練習してもらいました。練習前に初見で演奏し、練習の直後と1日後に演奏して、3人のプロのクラリネット奏者が録音を評価しました。条件によって評価に差があった場合は、インターリーブで練習した曲のほうが高く評価されましたが、評価者によってばらつきがありました。アンケートでは、インターリーブ練習が、目標設定、集中、ミスの発見にも良い影響をもたらしたと回答されています。

Carter, C.E., & Grahn, J.A. (2016). Optimizing music learning: exploring how blocked and interleaved practice schedules affect advanced performance.

Frontiers in Psychology, 7, 1251. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2016.01251

10人のクラリネット奏者で、ブロック練習とインターリーブ練習の効果を比べた研究。評価に差があったときは、インターリーブで練習した曲のほうが高く評価されたが、評価者によってばらつきがあった。

練習への当てはめの例としては、曲の難所3か所を、続けて10回ずつ練習する代わりに、3か所を1回ずつ順に回していく、といったやり方があります。ただし、効果の大きさには幅があり、すべての場面でインターリーブ練習が有利とは言えません。

Rest and Sleep練習のあとの時間も、技術の定着に関わる

運動技能の上達は、訓練のあと少なくとも24時間は続くことが知られています。覚醒していた時間と、眠っていた時間のどちらが寄与するのかを調べた実験では、一晩の睡眠のあとに、正確さを落とさずに運動の速さが約20%上がりました。同じ長さの時間を起きて過ごした場合は、有意な向上が見られませんでした。夜間の向上は、特にステージ2のノンレム睡眠(夜の後半)の量と関連していました。

Walker, M.P., Brakefield, T., Morgan, A., Hobson, J.A., & Stickgold, R. (2002). Practice with sleep makes perfect: sleep-dependent motor skill learning.

Neuron, 35(1), 205–211. https://doi.org/10.1016/S0896-6273(02)00746-8

運動技能の上達に、睡眠が果たす役割を調べた実験。一晩の睡眠のあとに運動の速さが約20%上がり、同じ時間を起きて過ごした場合には有意な向上がなかった。

もっと短い時間の休みにも、意味がある可能性が報告されています。短い練習と休憩を繰り返す訓練を、秒単位で追跡した研究では、練習している間にはあまり成績が変わらず、練習と練習の間の休憩中に、成績が有意に向上していました。この休憩中の向上が、初期の学習の大部分を説明していました。休憩中の向上は、学習曲線が急な初期の練習で特に目立ち、脳活動(ベータ帯)が休憩中の向上を予測しました。

Bönstrup, M., Iturrate, I., Thompson, R., Cruciani, G., Censor, N., & Cohen, L.G. (2019). A rapid form of offline consolidation in skill learning.

Current Biology, 29(8), 1346–1351. https://doi.org/10.1016/j.cub.2019.02.049

短い練習と休憩を繰り返す訓練で、練習中ではなく休憩中に成績が向上し、それが初期の学習の大部分を説明することを示した研究。数秒単位の休憩でも定着が起きる可能性を示している。

練習の間隔については、言語記憶課題の研究ですが、839の評価(317の実験、184の論文)をまとめたメタ分析があります。学習の間隔を空けることの効果と、最適な間隔が、あとで思い出すまでの期間によって変わることが示されています。ただし、言語記憶の課題であり、楽器の練習にそのまま当てはまるとは限りません。

Cepeda, N.J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J.T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: a review and quantitative synthesis.

Psychological Bulletin, 132(3), 354–380. https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.3.354

言語記憶課題における、学習の間隔を空ける効果(分散効果)に関する839の評価をまとめたメタ分析。最適な学習の間隔は、あとで思い出すまでの期間によって変わる。

これらの研究から言えるのは、練習した直後の時間と、その夜の睡眠も、技術の定着に関わっているという点です。ただし、睡眠の研究の課題は運動課題であり、楽器の演奏で同じ割合の向上が起きると言うことはできません。

Mental Practiceイメージ練習は、実際の練習に加える形で

運動イメージ(実際に動かさずに、動きを頭の中で思い描くこと)による練習の効果を調べた研究を、教育・医学・音楽・心理学・スポーツの5分野で整理した系統的レビューがあります。133件の研究(141の介入)が対象です。文献からは、運動イメージは、実際の練習と組み合わせた場合に有益だとされています。

平均的な介入では、期間は34日、週に3回、1回17分で、1回あたり34試行、合計で178分でした。成功している介入の要素は、個別で、指導つきで、非指示的なセッションであり、実際の練習のあとに追加されていることでした。つまり、イメージ練習は、実際の練習の代わりではなく、実際の練習に加える形で効果が報告されています。

Schuster, C., Hilfiker, R., Amft, O., Scheidhauer, A., Andrews, B., Butler, J., Kischka, U., & Ettlin, T. (2011). Best practice for motor imagery: a systematic literature review on motor imagery training elements in five different disciplines.

BMC Medicine, 9, 75. https://doi.org/10.1186/1741-7015-9-75

運動イメージの訓練を、5つの分野の133件の研究から整理した系統的レビュー。運動イメージは実際の練習と組み合わせたときに有益で、成功した介入は、実際の練習のあとに追加されていた。

Glossary用語のまとめ

この記事で使う用語
用語意味
意図的練習技能を向上させるために特別に設計された、構造化された練習
学習(運動学習)時間がたっても保たれる、技能の比較的永続的な向上
成績(パフォーマンス)練習中にその場で観察できる出来。学習の指標としては当てにならない場合がある
保持練習から時間をおいたあとに、同じ課題を行ったときの成績
転移練習した課題とは違う課題や条件で、技能を発揮できること
ブロック練習同じ課題を続けて練習する方法
インターリーブ練習(ランダム練習)複数の課題を交互に練習する方法
文脈干渉効果インターリーブ練習のほうが、あとの保持の成績が良くなる現象
分散練習練習を時間的に間隔を空けて行う方法
運動イメージ実際に動かさずに、動きを頭の中で思い描くこと

Example1回の練習の流れの例

研究の結果を、1回の練習にあてはめた一例です。これは一般的な例であり、この順番や時間が最適であることを示すものではありません。

練習の流れの例(60分の場合)
順番内容根拠にした研究
1最初に、その日に直す箇所と目的を決める(数分)意図的練習の考え方
2難所を3か所ほど選び、続けず、交互に練習する(20〜30分)文脈干渉効果(Brady 2004、Carter & Grahn 2016)
3区切りごとに、短く休む休憩中の成績向上(Bönstrup 2019)
4曲全体を通して弾く練習の最後の成績ではなく、あとの保持が学習の指標(Kantak & Winstein 2012)
5終わったあと、弾いた動きを頭の中で確認する(数分)運動イメージを実際の練習に加える(Schuster 2011)
6夜はしっかり眠り、翌日以降の出来で効果を確かめる睡眠と定着(Walker 2002)

Misconceptionsよくある誤解

💭

「長く練習すれば、上手くなる」とは限らない

意図的練習の量が成績の個人差を説明する割合は、音楽で21%でした。ピアニストの研究でも、練習量は演奏の質と有意には関連していませんでした。

💭

「練習中にうまく弾けた方法が、正解」とは限らない

練習中の出来は、長期的な学習の指標として当てにならない場合があります。時間をおいたあとの出来で確かめる必要があります。

💭

「できるまで繰り返すのが、いちばん効率的」とは言えない

同じ課題を続けるブロック練習より、交互に練習するインターリーブ練習のほうが、あとの成績が良くなる傾向が示されています。ただし、効果の大きさには幅があります。

💭

「イメージ練習だけで足りる」とは言えない

イメージ練習は、実際の練習と組み合わせたときに有益とされています。成功した介入は、実際の練習のあとに追加されていました。

このシリーズでは、意図的練習、ブロック練習とランダム練習、分散練習、睡眠、ゆっくり練習、チャンキング、イメージ練習、録音とフィードバック、休憩、暗譜、初見演奏などを、個別の記事で順に取り上げます。

Summaryまとめ:練習を組み立てるときの観点

研究から言えることと、練習への当てはめの例
観点研究から言えること当てはめの例(一般的な例)
練習の量練習量だけでは、成績の個人差を説明しきれない(音楽で21%)時間を決めるだけでなく、その時間で何を直すかを決めてから弾く
練習の質ピアニストの研究では、練習量は演奏の質と有意に関連しなかった練習の内容を振り返り、録音などで確認する
順序インターリーブ練習で、あとの保持が良くなる傾向がある(効果の幅は大きい)難所を、続けず交互に練習する
確認の仕方練習中の出来は、学習の指標として当てにならないことがある翌日や数日後の出来で、効果を確かめる
休み方睡眠のあとや、短い休憩の間にも、成績が向上した実験がある練習の区切りで短く休み、練習後は睡眠をとる
イメージ練習実際の練習に加える形で、効果が報告されている弾いたあとに、頭の中で動きを確認する

ここに挙げた当てはめの例は、研究結果にもとづく一般的な整理であり、すべての人に同じ効果があることを保証するものではありません。脳の中で技術がどう身につくのかについては、演奏の技術は、脳の中でどう身につくのかで整理しています。

お伝えしたいこと

このページは一般的な情報であり、診断や治療を目的としたものではありません。練習量を増やしたときに、痛みやしびれが続く、指が思うように動かないといった症状がある場合は、練習を続けずに、整形外科や演奏家の診療を行っている医療機関にご相談ください。

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個別記事は、順次追加していきます。

FAQよくある質問

Q. 1日に何時間、練習すればよいですか?

A. 研究では、練習量だけでは上達の個人差を説明しきれないとされています。ピアニストの研究でも、練習の量は演奏の質と有意には関連しませんでした。時間の長さより、練習の内容と確認の仕方を見直すのが、研究の考え方に近いといえます。

Q. 同じ箇所を何回も繰り返すのは、効果がありませんか?

A. 繰り返し自体が無駄とは言えません。ただし、同じ課題を続けるブロック練習より、課題を交互に練習するインターリーブ練習のほうが、あとの成績が良くなる傾向が複数の研究で示されています。効果の大きさには幅があり、すべての場面で有利とは言えません。

Q. 寝る前に練習すると、定着しますか?

A. 一晩の睡眠のあとに、運動の速さが約20%上がった実験があります。ただし、この実験の課題は演奏そのものではありません。結果をそのまま、練習の時間帯の決め方に当てはめることはできません。

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