この記事でわかること
- 意図的練習とは、技能を高めるために特別に設計された、構造化された練習のことで、1993年に提案された考え方です。
- 音楽の13研究(合計788人)をまとめたメタ分析では、練習の累積時間と演奏の成績の関連は r = 0.61 でした。
- 分野をまたいだメタ分析では、意図的練習が説明する成績の個人差は音楽で21%で、練習量だけでは説明しきれないと結論づけられています。
- 1993年の研究をバイオリンを学ぶ学生で確かめ直した研究では、中心的な結果は再現されず、効果は元の研究より小さいものでした。
- 双子約1万500人の研究では、遺伝の影響を考慮すると、練習量と聞き分けの能力の関連は見られませんでした。ただし演奏の技術は測っていません。
- 結論の違いには、「何を意図的練習として数えるか」という定義の違いが関わっており、議論が続いています。
What It Is意図的練習とは何か
意図的練習(deliberate practice)は、1993年に心理学者のエリクソンらが提案した考え方です。技能を高めるために特別に設計された、構造化された練習のことを指します。楽しみのために弾くことや、ただ時間をかけて弾くこととは、区別して考えられています。
エリクソンらは、効果的な訓練についての知識が何世紀にもわたって積み重ねられてきた分野として、音楽を研究の対象にしました。音楽大学では、指導者が学生に個別の指導を行い、次の指導までの練習で、何を目標にし、どのような方法で練習するかを決める手助けをします。このような、ひとりで行う練習が「意図的練習」と名づけられました。そして、その累積時間が、到達した演奏のレベルが異なるグループを区別していたと報告されています(エリクソンら自身による2019年の振り返りにもとづく)。
Ericsson, K.A., Krampe, R.T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance.
「意図的練習」の概念を提唱した論文。技能を高めるために特別に設計された、構造化された練習が、専門的な技能の習得に果たす役割を論じている。
この考え方は、「たくさん練習した人ほど上手くなる」という理解とあわせて、一般向けの本や記事でも広く紹介されてきました。一方で、その後の研究では、練習量で上達がどこまで説明できるのかについて、異なる結果が出ています。以下で、主な研究を順に見ていきます。
研究で多く使われてきた指標
- これまでに練習した時間の合計(累積時間)
- 本人の振り返りによる推定
- 練習の中身は問わないことが多い
エリクソンらが今後測るべきとした点
- 練習の質
- 集中しているか
- 分析や問題解決を伴っているか
Supporting Evidence練習時間と演奏の成績には、はっきりした関連がある
音楽の分野に絞って、意図的練習と演奏の成績の関係をまとめたメタ分析があります。メタ分析とは、複数の研究の結果を統計的にまとめる方法です。このメタ分析は、音楽の演奏について行われた最初のものとされています。
対象は13研究、合計788人です。条件は、「課題に関係する練習の累積時間」が記録されていること、そして「演奏の成績が客観的に評価されていること」でした。分析の結果、練習の累積時間と演奏の成績との関連の強さ(相関係数)は r = 0.61(95%信頼区間 0.54〜0.67)と推定されました。著者らは、音楽における熟達を説明するうえで、長期の練習が中心的な役割を果たすことを裏づける結果だと述べています。
Platz, F., Kopiez, R., Lehmann, A.C., & Wolf, A. (2014). The influence of deliberate practice on musical achievement: a meta-analysis.
音楽の演奏における意図的練習の役割を調べた、最初のメタ分析。13研究(合計788人)をまとめ、課題に関係する練習の累積時間と、客観的に評価された演奏の成績との関連を r = 0.61 と推定した。
クラシック音楽の訓練では、ひとりで行う練習が、技能を身につける時期の代表的な練習とされています。このメタ分析も、その考え方に沿って、課題に関係する練習の時間を集計しています。
Limits of Quantity練習量だけでは説明しきれない、という研究
一方で、分野をまたいで意図的練習と成績の関係を調べたメタ分析では、異なる見方が示されています。意図的練習が成績の個人差を説明する割合は、次のとおりでした。
| 分野 | 説明する割合 |
|---|---|
| ゲーム | 26% |
| 音楽 | 21% |
| スポーツ | 18% |
| 教育 | 4% |
| 職業 | 1%未満 |
著者らは、意図的練習は重要だが、主張されてきたほど重要ではないと結論づけています。音楽でも、練習量以外の要因が、個人差の多くに関わっているということです。
Macnamara, B.N., Hambrick, D.Z., & Oswald, F.L. (2014). Deliberate practice and performance in music, games, sports, education, and professions: a meta-analysis.
意図的練習と成績の関係を、音楽・ゲーム・スポーツ・教育・職業の各分野でメタ分析した研究。意図的練習が成績の個人差を説明する割合は、音楽で21%だった。意図的練習は重要だが、主張されてきたほど重要ではないと結論づけている。
1993年の研究そのものを、もう一度行って確かめた研究もあります。対象は、元の研究と同じくバイオリンを学ぶ学生です。評価する人も参加者も条件を知らない「二重盲検」の手続きを取り入れ、研究の設計に合った分析方法を使いました。
結果として、「練習の累積量が、技能のレベルごとに対応している」という元の研究の中心的な結果は、再現されませんでした。練習の効果そのものは大きいものでしたが、元の研究よりかなり小さい値でした。また、指導者が設計した練習は、ひとりで行う練習よりも、バイオリンの上達に関係が薄いと受け止められていました。指導者が設計した練習の量は、ひとりで行う練習の量より多く、成績の個人差を説明するわけではありませんでした。
Macnamara, B.N., & Maitra, M. (2019). The role of deliberate practice in expert performance: revisiting Ericsson, Krampe & Tesch-Römer (1993).
1993年の研究を、バイオリンを学ぶ学生を対象に、二重盲検の手続きで再現しようとした研究。練習の累積量が技能のレベルごとに対応するという中心的な結果は再現されず、効果は大きいものの、元の研究より小さかった。
Twin Study双子の研究から見た、練習と能力の関係
練習量と能力の関連が、練習の効果なのか、それとも別の要因によるものなのかを調べるために、双子を対象にした研究が行われています。スウェーデンの双子約1万500人を対象に、音楽の練習量と、音楽の能力(リズム・旋律・音高の聞き分け)との関係を調べたものです。
練習量と能力の関連
練習量と能力の間には、相関係数で0.18〜0.36の関連がありました。
練習量そのものの遺伝率
どのくらい練習するかには、遺伝的な要因が大きく関わっていました(遺伝率40〜70%)。
一卵性双生児の比較
遺伝的にほぼ同じ一卵性双生児で、練習量が違うペアを比べると、能力に差はありませんでした。
著者らは、音楽の練習が音楽の能力を因果的に高めるとは限らず、遺伝的な違いが、能力と「練習しようとする傾向」の両方に影響している可能性があると述べています。
Mosing, M.A., Madison, G., Pedersen, N.L., Kuja-Halkola, R., & Ullén, F. (2014). Practice does not make perfect: no causal effect of music practice on music ability.
スウェーデンの双子約1万500人で、音楽の練習量と音楽の能力(リズム・旋律・音高の聞き分け)の関係を調べた研究。関連は主に遺伝的な要因によるもので、練習量の異なる一卵性双生児の間では、能力に差がなかった。
ただし、この研究で測った「音楽の能力」は、リズム・旋律・音高を聞き分ける力です。楽器を演奏する技術そのものを測ったものではありません。この結果を、楽器の演奏の上達にそのまま当てはめることはできません。
また、エリクソンらは2019年の論文で、遺伝的な要因がこれまでに説明できた成績の個人差は、身長や体の大きさの影響を除くと、非常に小さいと報告しています。練習と遺伝の関係については、研究者の間でも見解が分かれています。
Why Results Differなぜ研究によって結論が違うのか
結論の違いの大きな理由のひとつは、「意図的練習」の定義です。エリクソンらは2019年の論文で、2014年の分野横断のメタ分析が使った定義は、元の定義と大きく異なると指摘し、それを「構造化された練習」と呼んで区別しました。
そのうえで、再現できる成績の測り方と、目的をもった練習について3つの基準を示し、基準に合わない効果を除いて再分析しました。その結果、練習の累積時間が成績の個人差を説明する割合は、29%および61%(減衰の補正後)と、2014年のメタ分析よりかなり大きく推定されました。
Ericsson, K.A., & Harwell, K.W. (2019). Deliberate practice and proposed limits on the effects of practice on the acquisition of expert performance: why the original definition matters and recommendations for future research.
2014年のメタ分析の「意図的練習」の定義は元の定義と大きく異なると指摘し、元の定義に合う効果だけで再分析した論文。練習の累積時間が説明する割合は、はるかに大きく推定された(29%、61%、減衰の補正後)。今後は、集中・分析・問題解決を含む練習の質を測る必要があると提言している。
| 研究 | 対象 | 主な結果 |
|---|---|---|
| Platz ら 2014 | 音楽の13研究(788人) | 練習の累積時間と演奏の成績の関連は r = 0.61 |
| Macnamara ら 2014 | 音楽・ゲーム・スポーツ・教育・職業 | 意図的練習が説明する個人差は、音楽で21% |
| Macnamara & Maitra 2019 | バイオリンを学ぶ学生 | 1993年の中心的な結果は再現されず、効果は元の研究より小さい |
| Mosing ら 2014 | スウェーデンの双子約1万500人 | 遺伝の影響を考慮すると、練習量と聞き分けの能力の関連は見られない |
| Ericsson & Harwell 2019 | 2014年のメタ分析の再分析 | 元の定義に合う効果に絞ると、説明する割合は29%、61%(減衰の補正後) |
どの研究も、練習と成績に関連があること自体は否定していません。違いは、「練習量でどこまで説明できるか」と、「何を意図的練習として数えるか」にあります。
Glossary用語のまとめ
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 意図的練習 | 技能を高めるために特別に設計された、構造化された練習。1993年にエリクソンらが提案した |
| 構造化された練習 | エリクソンらが、2014年のメタ分析で使われた定義を、元の意図的練習と区別するために使った呼び方 |
| 累積時間 | これまでに行った練習の時間の合計 |
| メタ分析 | 複数の研究の結果を、統計的にまとめる方法 |
| 相関係数(r) | 2つの量の関連の強さを表す数値。1に近いほど関連が強い。関連があることは、原因と結果の関係を意味しない |
| 個人差を説明する割合 | 成績のばらつきのうち、ある要因の違いで説明できる部分の割合 |
| 遺伝率 | ある特徴のばらつきのうち、遺伝的な違いで説明される部分の割合 |
| 二重盲検 | 評価する人も参加者も、条件を知らない状態で行う研究の手続き |
| 減衰の補正 | 測定の誤差によって、関連が小さく見えることを統計的に補正する方法 |
Misconceptionsよくある誤解
「長く練習すれば、誰でも同じところまで上達する」とは言えない
分野をまたいだメタ分析では、音楽で意図的練習が説明する個人差は21%でした。1993年の研究の再現研究でも、効果は元の研究より小さいものでした。
「練習量は関係ない」わけでもない
音楽のメタ分析では、練習の累積時間と演奏の成績に r = 0.61 の関連がありました。練習の効果が小さいとする研究でも、関連そのものはあるとされています。
「上達は才能で決まる」とも言い切れない
双子の研究が測ったのは聞き分けの能力で、演奏の技術ではありません。また、遺伝的な要因が説明できた個人差は、これまでのところ小さいという報告もあります。
Limitsまだわかっていないこと
練習時間の測り方
多くの研究は、本人が振り返って推定した練習時間を使っています。実際の練習時間とずれる可能性があります。
関連と因果
練習時間と成績の関連を調べた研究が中心で、練習を増やすとどれだけ上達するか、という因果関係は直接示されていません。
定義の違い
何を意図的練習として数えるかが研究によって異なり、数字を単純に比べることはできません。
能力の測り方
「音楽の能力」として何を測るか(聞き分け、演奏の評価など)も、研究によって異なります。
楽器への当てはめ
紹介した研究は、ピアノやバイオリンなど西洋の楽器や、聞き分けの課題が中心です。箏などの和楽器で同じ結果になるかは、この記事の範囲ではわかりません。
Use練習にどう活かせるか(一般的な整理)
以下は、研究結果にもとづく一般的な整理であり、特定の練習法の効果を保証するものではありません。
時間だけで練習を評価しない
練習時間と成績には関連がありますが、時間だけで個人差を説明しきれないという研究が複数あります。
練習の中身を意識する
エリクソンらは、今後の研究では時間だけでなく、集中・分析・問題解決を含む練習の質を測る必要があると提言しています。何を目標に、どう練習したかを振り返ることは、この考え方に沿ったものです。
指導者と目標を共有する
元の考え方では、指導者が目標や方法を決める手助けをすることが前提でした。ただし、再現研究では、指導者が設計した練習の量が、ひとりで行う練習の量より多く個人差を説明するという結果は得られていません。
続けることの意味
音楽のメタ分析では、長期の練習の累積時間と演奏の成績に、はっきりした関連がありました。
お伝えしたいこと
このページは一般的な情報であり、診断や治療を目的としたものではありません。練習時間を増やしたあとに、手や腕、首・肩などの痛みやしびれが続く場合は、無理に練習を続けずに、整形外科や演奏家の診療を行っている医療機関にご相談ください。
練習の順序や休み方、睡眠、イメージ練習など、練習の組み立て方の全体像は、上達する練習のやり方:運動学習の研究からで整理しています。
FAQよくある質問
Q. 意図的練習とは何ですか?
A. 技能を高めるために特別に設計された、構造化された練習のことです。1993年に心理学者のエリクソンらが提案した考え方で、音楽大学で指導者の助けを受けながら、ひとりで行う練習がもとになっています。
Q. 練習時間が長いほど、演奏は上手くなりますか?
A. 音楽の13研究をまとめたメタ分析では、練習の累積時間と演奏の成績に r = 0.61 の関連がありました。一方、分野をまたいだメタ分析では、意図的練習が説明する個人差は音楽で21%で、練習量だけでは説明しきれないと結論づけられています。
Q. 上達は、才能で決まるのですか?
A. スウェーデンの双子の研究では、遺伝の影響を考慮すると、練習量と聞き分けの能力の関連は見られませんでした。ただし、測ったのは演奏の技術ではありません。また、遺伝的な要因が説明できた個人差は、身長や体の大きさを除くと小さいという報告もあり、結論は出ていません。